仕事で使えるベトナム語を学びたい人にどう伝えるか

語学に王道なし、万人に通じる方法は無い。

特に音から入る人と、文字から入る人の隔たりはかなりある。

 

目標ベトナム語で仕事ができるようになる

前提:文字から入る人

 

ベトナム語のかんたんなところ

- 漢語の知識を活用できる

- 活用・曲用がないため文法の暗記事項が少ない

- ベトナム語母語話者はおしなべて日本語母語話者に興味があり、また練習相手を見つけることが比較的容易

 

- 寛容度が高く、少数の基本的なルールを守って語をつなげれば、よほどのことが無い限り理解可能な文になる

- 上記少数の基本的なルールは強固で普遍的なものであり、方言や若者言葉などにも敷衍可能である。

その有り難い効果として「化石化した文法」というのが極めて少ない。方言、俗語、文章の硬さの調整、単純な同義表現などは、あくまで文構造を変えない範囲で現れ、単語の入れ替えの範囲にとどまることが多い。結果として文脈スイッチングが「互換な語」を覚えることで対応可能である。

 

- 互換によって同義語を入れ替えることが頻繁に行われるということは、複合名詞の構成要素を、常に共時態の中で新しい方へと入れ替える実践が行われてきたと考えられる。その結果であろうが、化石化した名詞も非常に少ない。つまり実用的な複合名詞を構成する個々の名詞は、ほとんど単独でも理解可能なのである。

 

ベトナム語の難しいところ

- 一般的には発音が難しいと解されている。難しいと感じる学習者が多いのは以下の理由によるものであろう

1. 母語話者も含め、声調を正しく教えられる知識を持つ者が居ない。ピッチだけでなく長さと声門閉鎖もコントロールする必要があることぐらいは知られるようになったが、sắcとnặngが2種類あること、個人のクセによって変わる部分と変わらない部分はどこかなどはかなり専門的な本にも掲載されていない。学習者の耳の良さに頼るのが現状であろう。

2. 有気音と無気音、単音節性、非破裂子音など、世界規模で見ればありふれた現象ではあるものの(例えば韓国語はこの多くを備えている)、日本語と英語しか知らない者には見慣れない特徴を持っている

 

- 人口構成における20代の厚みが大きいなどの理由で、略語、口語、方言や俗語との境目が曖昧な語、世代を選ぶ流行語、発音がベトナム語化した外来語など、紙上学習でカバーしづらい知識が仕事上などの準公的な場にも登場しうる。

 

- 寛容度の高い文法の裏返しで、よりどころとすべき厳密なルールが無く、自然な文産生を机上学習で学ぶことが難しい(正しい文で意味も伝わるのだが不自然、という範囲が広い)。

 

- 文脈依存性が高く、含まれる意味の密度が高い。互いの了解がある知識や文脈にはあえて言及せず、「みなまで言わない」の原則に従い、ごく短い文に多くの情報が詰まっているため、単語個々の意味は分かっても、何度読んでも伝えたいことがわからない、という状況も多発し、初学者の決意を挫きがちである。

一例としては、冗談が日常生活において重要な娯楽でありながら、冗談の面白さの感覚は日本語圏とは大きく異なるため、初学者のうちは、本気で言っているのか判断しづらい発話に惑わされがちである。

 

 

仕事でベトナム語が必要な日本語母語話者に、覚えてもらうことは可能なのか

自分は自分なりの語学学習の方法が完全に確立してしまったので、時間を投入すれば見合った結果が得られるという「作業」になってしまったが、

ほとんどの人は自分なりの確立した語学学習の方法を持っていないので、方法をコロコロ変えたりして、実際に学習している時間がすごく少なかったりする。

正解なんかないんだから、とりあえず手元にある方法でやればいい、というのは通り抜けた側の理屈に過ぎなくて、

やはり膨大な労力を投入するのだから、結果として使い物になるか(もとが取れるのか)が心配になって本腰を入れられないのは人間らしい感情というべきであろう。

そのせいで結果が出ないので、元も子もないわけだが、それを言うならそもそも、ベトナム語がどうしても必要という状況にある日本語母語話者自体がほとんど存在しないので、趣味で勉強する人にそんな発破をかけるわけにもいかない。

 

とりあえずおだてながら(ベトナム人の得意技)、勉強することをやめないでいてもらうのが消極的対策となるだろう。

難しいところは全部回避する。例えばチャットで主に使ってもらえば、発音のダメ出しを食らってモチベーションを下げずに済む。500単語覚えるぐらいのところまで、これで引っ張ろう。

500単語覚えるのはそれなりに積極的な努力を要求するので、そこまで引っ張ればサンクコスト効果でしばらくやめないでもらえるだろう。

それでも、ある期間(最低半年)、ベトナム語を第一優先順位において集中する期間を作ることは避けられないだろうな。周りで集中できる環境を作ってやる必要がある。仕事を減らすとかしてでも。

 

自分の考えを表明しなければ仕事ではない。

その意味で、仕事で使えるベトナム語は5000語からだろう(いかなる言語でもこのくらいだと思う。厳密に言えば、日本語学習は英語学習に比べて多くの語数を要求するらしいが)。

できれば例文ごと暗記してほしい。チャンクで頭に入っていると、文産生の瞬発力が段違いなので。

でもそんな例文ごと運用可能な単語帳は存在しないので、自分で作るしか無いのである。多くの人はこれをやらない。無駄な労力を使うのが不安だから。

最適化された教材がない分野って、そうなのである。人々は明らかにやるべきことをやらない。無駄な労力を使うのが不安だから。

なんとも再現性のない感じだ。しかしまあ、周囲の視点からも、試して見る価値はある。再現性がないからこそ、異能といえる。